本業は自分
― 元銀行員がミャンマーで僧侶となり辿り着いた生き方 ―

金沢の小さな古民家ゲストハウス「ポンギー」。

この宿には、創業者・まさきが人生の挫折やミャンマーでの僧侶体験を通して大切にするようになった、一つの生き方があります。

それが、「本業は自分」 です。

職業や肩書き、社会的な成功だけを人生の中心にするのではなく、自分自身を人生で最も大切な仕事と考え、自分の人生を自分で生きていく。

そんな想いが、ポンギーの原点となっています。

宿の名前の由来
ミャンマーでの僧侶体験

「ポンギー」とは、ミャンマー語で「僧侶」という意味です。

まさきは、かつて銀行員として働き、家庭を持ち、経済的にも恵まれた生活を送っていました。

しかし、心のどこかに虚しさがあり、「何のために生きているのだろう」と問い続けていました。

その後、家庭を失い、銀行を退職し、新たに関わった会社も行き詰まり、人生のどん底へ。

ある日、布団から起き上がれないほど追い詰められたとき、ふと気づきました。

「それでも、息をしている。」

自分の意思とは関係なく、呼吸は続いている。

そのとき、心の奥から小さな感謝が湧いてきました。

この体験が、今もまさきの生きる原点の一つになっています。

やがて、日本人のミャンマー僧侶、ガユーナ・セアロ師と出会い、2004年、43歳のときにミャンマーで僧侶となりました。

師のもとで、貧しい村や孤児院への奉仕、瞑想などを経験しました。

あるとき、まさきは師に尋ねました。

「魂で生きるには、どうしたらいいんですか」

すると師は、こう言いました。

「誰か、ハンマーを持ってきて、まさきの頭をかち割ってやれ」

その後、自分がどう生きたいのかわからないと話したとき、師はこう教えてくれました。

「分からんから生きてるんだ。分からんから味わうんだよ。体験して、体験して、体験するんだ」

答えを頭で探すのではなく、自分で生き、自分で体験し、自分で味わう。

まさきは、奉仕や瞑想、師との対話を通して、その大切さを少しずつ学んでいきました。

「自分でよし」と思えた朝

ミャンマーの聖地ゴールデンロックで、夜明け前から瞑想していたときのことです。

空が明るくなり始めると、理由もなく涙が流れました。

「これでいい」

そう言われているような感覚でした。

「自分でよし」

それまで長い間、自分のことが好きになれなかったまさきが、初めてそう思えた瞬間でした。

人と比べて優れている必要はない。

何かを成し遂げたから価値があるのでもない。

良いところも、嫌なところもある。失敗も後悔もある。

それでも、この自分として生きていく。

自分の過去も、これからの人生も、自分自身の人生として引き受ける。

まさきにとって、それが新しい人生の始まりでした。

「本業は自分」とは

「仕事は、目の前にきたことを精一杯やる。本業は自分自身だ。」

ミャンマーから帰国し、社会の中で生きることを選んだまさきは、やがて自分の生き方をこう表すようになりました。

仕事も、家庭も、お金も、人生の大切な一部です。

しかし、それらが人生のすべてではありません。

仕事や肩書きが変わっても、住む場所や環境が変わっても、生まれてから人生の最後まで付き合っていくのは、自分自身です。

「本業は自分」とは、この自分として、自分の人生を自分で引き受け、自ら選び、体験し、味わいながら、本気で生きていく人生観です。

まさきは、その生き方の中で、六つの姿勢を大切にしています。

  1. 比較にとらわれない ― 他人の評価だけで自分の価値を決めない。
  2. 自分自身に感動する ― 心が動くことに取り組み、結果だけでなく、挑戦した自分を認める。
  3. 自分の必要最小限を知る ― 本当に大切なものを見つめ、執着にとらわれない。
  4. 利他の心をもつ ― 自分を大切にしながら、他の人の幸せも願う。
  5. 試練に向き合う ― 思いどおりにならないことも含め、今の自分として生きる。
  6. 一日一日に感謝する ― 生きていること、出会い、日々の出来事を大切にする。

これらは、守らなければならない規則ではありません。

「自分でよし」と立ち、自分の人生を本気で生きるために、日々心がけている姿勢です。

ポンギーに込められた想い

2009年、まさきは金沢でゲストハウス「ポンギー」を開きました。

宿泊施設を経営した経験はありませんでしたが、世界中からやってくる旅人たちが、国や文化の違いを超えて、心を通わせる場所をつくりたいと思ったのです。

知らない国から来た人たちが出会い、言葉を交わし、一緒に笑う。

困っている人がいれば、自然に手を差し伸べる。

そんな小さな宿で生まれる何気ないひとときが、まさき自身の大きな喜びになりました。

自分が心からやりたいことを精一杯やり、それが誰かの喜びにもつながっていく。

ポンギーは、「本業は自分」という生き方を実践する場所となったのです。

今の自分を生きる

2021年、まさきは急性心筋梗塞で倒れ、心機能が大幅に低下しました。さらに首の難病も見つかり、それまでのようには身体を動かせなくなりました。

できなくなったことへの悔しさもあります。

それでも、病気を経験した今の自分も、自分自身です。

以前のように動けなくても、今の身体で、今の人生をどう生きるか。

人の助けを借りながら、自分にできることをしていく。

現在、ポンギーの運営は女将のにいなが中心となって担っています。

まさきは、ときどき宿を訪れて旅人たちと交流しながら、自分の人生で学んだことを文章に綴っています。


自分でよかった、と思える人生を


まさきがセアロ師から学び、今も大切にしている言葉があります。

「全ての人々が生きる喜びに満たされますように」

自分だけでなく、他の人も、それぞれの人生を生き生きと生きられることを願う。

その根底には、生きていることへの感謝と祈りがあります。

そして、祈るだけでなく、自分で考え、選び、行動し、日々を体験し、味わっていく。

まさきは、そんな生き方を大切にしています。

人生は、思いどおりになることばかりではありません。

それでも、自分の人生を自分自身で生き、いつか振り返ったとき、

「私で生まれてよかった」

そう思える人生でありたい。

そして、ポンギーを訪れる旅人たちにも、それぞれの人生を、自分らしく、心豊かに生きてほしいと願っています。

もっと「本業は自分」を知りたい方へ


ここでご紹介したのは、創業者・まさきの人生と「本業は自分」という生き方の一部です。

人生の挫折、ミャンマーでの僧侶体験、ポンギーの創業、病気を経験した今の暮らしなどを通して、大切にしていることをnoteに綴っています。

まさき|本業は自分

https://note.com/pongyiheart

ポンギーの談話室にも、創業者の歩みを紹介した冊子『本業は自分』を置いています。ご宿泊の際には、どうぞ自由にお読みください。